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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)596号 判決

上告人

小川博

右訴訟代理人弁護士

清水正雄

香田広一

被上告人

副島利男

右訴訟代理人弁護士

山本卓一

右訴訟復代理人弁護士

古賀岩蔵

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人香田広一の上告理由第五点について。

所論は、被上告人はすでに昭和三四年九月二八日本件建物を訴外中島繁次に売り渡してその所有権を失つているのであるから、右売渡後の同年一〇月五日に同年九月末日までの延滞賃料の催告をなし、右賃料不払に基づいて被上告人のなした本件賃貸借契約解除はその効力を有しない筈であるのに、原審が右解除を有効と判断して被上告人の請求を認容したのは、借家法の解釈を誤まつたものであるという。

記録によれば、上告人が昭和三五年二月一六日午前一〇時の原審最終口頭弁論期日において、被上告人は昭和三四年九月二八日本件家屋を訴外中島繁次に売り渡したからその実体的権利はすでに右訴外人に移転し被上告人はこれを失つている旨主張したのに対して、原審は右売却およびこれによる所有権喪失の有無につき被上告人に対して認否を求めないまま弁論を終結したことが明らかであり、原判決が、被上告人の本訴請求は賃貸借の消滅による賃貸物返還請求権に基づくものであるから仮に上告人主張のように被上告人が本件建物の所有権を他に譲渡してもこの事実は右請求権の行使を妨げる理由とはならないとして、被上告人の右請求を認容していることは、論旨のとおりである。

しかし、自己の所有建物を他に賃貸している者が賃貸借継続中に右建物を第三者に譲渡してその所有権を移転した場合には、特段の事情のないかぎり、借家法一条の規定により、賃貸人の地位もこれに伴つて右第三者に移転するものと解すべきところ、本件においては、被上告人が上告人に対して自己所有の本件建物を賃貸したものであることが当事者間に争がないのであるから、本件賃貸借契約解除権行使の当時被上告人が本件建物を他に売り渡してその所有権を失つていた旨の所論主張につき、もし被上告人がこれを争わないのであれば、被上告人は上告人に対する関係おいて、右解除権行使当時すでに賃貸人たるの地位を失つていたことになるのであり、右契約解除はその効力を有しなかつたものといわざるを得ない。しかるに、原審が、叙上の点を顧慮することなく、上告人の所論主張につき、本件建物の所有権移転が本訴請求を妨げる理由にはならないとしてこれを排斥したのは、借家法一条の解釈を誤まつたか、もしくは審理不尽の違法があるものというべく、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。

従つて、上告代理人香田広一のその余の論旨および上告代理人清水正雄の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、なお右の点について審理の必要があるものと認められるから、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 判裁官山田作之助 城戸芳彦 石田和外)

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